魅力No.2144


三陸復興国立公園指定記念「種差 -よみがえれ 浜の記憶」

2013年7月6日から青森県立美術館で始まった三陸復興国立公園指定記念「種差 ―よみがえれ浜の記憶」。

2011年3月11日の東日本大震災から約2年と5か月。
今年の5月24日には八戸市の蕪島(かぶしま)・種差(たねさし)海岸と階上(はしかみ)町の階上岳・階上海岸が、三陸復興国立公園に指定されました。

今回は青森県立美術館さまより特別に許可をいただきまして、企画展を取材することができました。

取材を通して、種差を愛した画家や小説家など多くの芸術家たちを惹きつける種差の魅力や、絵画などから見える歴史や海と共に生きる種差の人々の生活、そしてこれからの未来へとつなぐ「種差」の姿をレポートしたいと思います。

港町・種差の人々の暮らし

種差は港町であるため、人々の生活は海と共にあり、同時に漁労とともにあると言っても過言ではありません。

【右】大漁半纏 1932(昭和7)頃/八戸市博物館
【左】木造船「カッコ」 1962-1963(昭和37-8)頃/みちのく北方漁船博物館

昭和37年~38年に作られたという「カッコ」という木造船には幾多の荒波を乗り越えていったさまざまな傷跡が生々しく残っており、また、大漁の年にこれを着て神社に参詣に行ったという半纏(はんてん)を見ると、当時の漁に懸ける熱い想いを感じずにはいられません。

【左】船絵馬 1900(明治33)/種差熊野神社
【右】船絵馬「カッコ船難船図」 1909(明治42)/種差熊野神社

源義経北方伝説において八戸に上陸、休息を取ったとされる種差熊野神社の歴史や、大漁祈願や海難守護の願いを込めた船絵馬などの展示です。
義経北方伝説については、青森の魅力でもぽんたさんやnew_rockさんが記事にしており、とても興味深い内容となっております。ぜひこちらも併せてご覧ください。
http://bit.ly/1cvvTcC

「浜の古層 海からのめぐみと脅威」 展示の様子

種差を含む三陸沿岸地方の遺跡から出土している数々の土器、石棒、貝類、骨類などからも当時の生活が見えてきます。

種差周辺にも古墳がたくさんあるということを、今回初めて知りました。

また、「南部領海岸全図」の900センチメートルを超える長い絵巻には、沿岸警備をしていた背景から、下北半島から岩手県北上までの当時の砲台の位置なども伺い知ることができます。

鳥瞰図絵師・吉田初三郎氏

「吉田初三郎と種差」 展示の様子

種差を国立公園化に向けて奔走した吉田初三郎氏。
美しい色彩とデフォルメした大胆な構図で数々の鳥瞰図が展示されています。

「大正の広重」と言われる美しい色彩が素晴らしく、ただただ感動。
そしてまるで鳥になったかのような鳥瞰図の見下ろすような構図は爽快とさえ感じます。

リチャード・ロング氏

リチャード・ロング/津波の断想 2013

ランドスケープ(景観)・アーティスト、リチャード・ロング氏。
自然豊かな種差海岸を実際に訪れ野営をしながら体感し、東日本大震災で津波の被害にあった種差が抱えた記憶をマッドワーク(泥)で壁一面に表現。

10メートル四方の巨大なこの絵に見る人は何を感じるのか。

写真で見るより実物はとても大きく、泥が織りなす模様がさまざまな想いを掘り起こします。

これは実際に見に行って直接感じてほしい作品です。

秘仏「弁財天坐像」

弁財天坐像 / 浮木寺

蕪島の弁天堂に祀られ、現在は浮木寺に安置されている弁財天が展示されています。

頭頂に鳥居を構え、弓・矢・刀・斧・杵・矛・縄・玉を持つ姿はとても神々しく、一面八臂の仏像は弁財天の中でも珍しいそう。
さらには今年の4/21には140年ぶりに蕪嶋神社に帰還しました。

4/21に行われた蕪島まつりでは、御神輿やえんぶり、獅子舞、巫女舞が一斉に蕪嶋神社に集まり、12年ぶりに御開帳を迎えた2体の弁財天と140年ぶりに浮木寺に帰還した弁財天の三体が揃う、とても貴重なお祭りだったそうです。

今回はこの企画展でその貴重な弁財天坐像を拝見することができ、改めて歴史を知ることの奥深さを知りました。

こちらも実際にその表情や姿を見ていただきたいです。

種差には「伝えたい美しさ」がある

「どこかの天体から人がきて
地球の美しさを教えてやらねばならないはめになったとき
一番にこの種差海岸に案内してやろうとおもったりした」

―――司馬遼太郎

誰かに自分が住む場所の美しさを伝えるとき、まっさきに思い浮かぶ景色がここ種差にあると、司馬遼太郎は語っており、そんな景色がすぐそこにある贅沢を改めて実感しました。

私も、なぜか無性に種差海岸や蕪島、葦毛崎展望台に足が向くことが多く、
何がなくても、海に沈む夕日や、ウミネコが鳴く声や海にたゆたう姿を見ているだけで
心が落ち着き、満たされるのを感じます。

種差海岸のその景色は、まさに絶景。

そのあまりの美しさを目の前にすると、不思議と言葉は何も出てきません。

強い海風を浴びながら、ひいてはかえす波と岩を打つ波しぶき。
天気の良い日のまぶしい青空、ところどころに浮かぶ白い雲。
青々とした美しい芝生。
遠くに船が何隻か見え、その姿を何をするでもなく何時間でも眺めていられる―――。

種差は他の海では感じることのない、不思議な場所なのです。

青森の魅力でも愛されている種差

当サイト「青森の魅力」でもその美しさに心奪われた方がたくさんいます。その一部を紹介します。

魅力No.282 sakanaさん投稿 「吉田初三郎と種差海岸

魅力No.887 yukorinさん投稿 「ひとりぶらり旅in八戸

魅力No.1757 sduさん投稿 「あの海岸の、あのベンチで。

今回の展示では、多くの絵師・写真家・アーティストにより表現された種差。

東山魁夷氏の作品は時間の都合により今回見ることができませんでしたが、
新進気鋭の写真家・笹岡啓子氏の撮る種差など、ここには載せきれない多くの種差の魅力があり、種差を知っている人も知らない人もじっくりと堪能できる内容となっております。

昔からある港町・種差の歴史と知恵と想いが、この美しい景色を見せてくれているんだな、と。
そしてこれからも変わらない美しい種差であることを心から願っています。

私はこの企画展を見て、また種差海岸を訪れたいと思いました。
そしてまた、会期中に青森県立美術館に作品を見に行きたいと思います。

三陸復興国立公園指定記念「種差 -よみがえれ 浜の記憶」。
青森県立美術館で9月1日(日)まで開催中です。

お盆期間中も開催しておりますので、ぜひ一度ご覧いただければと思います。

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会期:2013年7月6日 (土) - 2013年9月1日 (日)
休館日:7月29日 (月)
開館時間:9:00 - 18:00 (入館は17:30まで)

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冒頭で述べたように、今回のこの取材は特別に撮影許可を得て取材させていただきました。
このような素晴らしい機会を与えてくださった青森県立美術館さまに心より感謝申し上げます。

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