魅力No.207


「ここは世界で一番魅力がある場所」@津軽金山焼

挑戦する人~中鉢 徹さん~

東京から金山へ

 五所川原市にある窯元「津軽金山焼」では、定期的に作品販売のイベントを開催するほか、陶芸、手作りピザ、ビーズストラップ作りなど体験型のメニューも充実しています。今回の「挑戦する人」は、陶芸体験(手びねり)の講師をしていらっしゃるプロの陶芸家、中鉢(ちゅうばち)徹(とおる)さんです。
 中鉢さんは、神奈川県横浜市の出身です。学生時代に美術を学んだ後、東京都内の陶芸教室で講師を勤めていました。そして数年前、地元から遠く離れた五所川原の地に、家族とともに移り住んだのです。陶芸体験の作業の合間に、中鉢さんは青森県民の私たちも知らなかった金山焼の魅力や、窯元の松宮亮二さんが取り組んでいる、新しい産地作り100年計画について話してくださいました。

世界最大級の規模

 金山焼の特徴はいろいろありますが、一番驚いたのは窯の大きさが世界最大級だということです。登り窯、小窯など窯の種類だけでも7種類と豊富で、現在は8基の窯が稼働しています。一般的な窯元が3か月に1回焼くのに対し、金山焼は月に5回窯入れを行います(窯入れとは、乾燥させた陶器を焼成室の棚に並べる作業です。入口が粘土で密閉された後に焼かれます)。窯入れの回数が15倍というだけでも、規模がどれほど大きいかお分かりいただけると思います。海外からも多くの陶芸家が訪れていて、その大きさに感動して帰っていくそうです。登り窯には約40枚の棚板があり、1棚に100個入るので、1回の窯入れでおよそ4,000個の作品が出来上がることになります。修学旅行で陶芸体験をする学校も多く、敷地内の工房には、窯入れ前の陶器がたくさん並んでいます。

良質で豊かな資源

 2つ目の特徴は、資源の豊富さです。金山焼の独特の色合いと手触りは、釉薬(ゆうやく)を使わず1,350度の高温で焼き続ける「焼締(やきしめ)」という焼き方から生まれます。釉薬は色をつける装飾の役割がありますが、焼締は薪窯(まきがま)などで焼くことで自然に灰がかかり、熔けて流れる技法です。電気やガスの窯なら1日半もあれば焼きあがりますが、「焼締」は5~7昼夜焼き続けるため、燃料の薪が大量に必要になります。近年、燃料の松が松くい虫に侵され全国的に品不足状態ですが、幸い青森県にはまだ被害がなく、ふんだんに確保できているそうです。
 そして原料となる粘土は、金山大溜池の底から採取しています。ため池の特性上、ある時期には水がなくなるので、粘土を定期的に採取できるというメリットがあるのです。粘土は堆積中に有機物が含まれるので、金山焼の器からは、カリウム・鉄・カルシウムなどが自然に発生するということが研究機関の成分分析で分かっています。実際に使っている方の感想を聞くと、ビアカップはビールの味をまろやかにし、花瓶に使えばお花が長持ちするそうです。

始まった100年計画

 材料・燃料ともに良質な資源は、500人の陶芸家がいると仮定しても500年もつと言われています。こうして、広い土地にも恵まれた金山に、新しい窯元を作るという100年計画の挑戦が、1985年に始まりました。産地作りは、窯元の一番弟子格である中鉢さんにとっても、大きな挑戦となっています。
 バブル期に高級品となった陶器はブランド化し、価格が下げられずに、経営が立ち行かなくなる窯元もあるそうです。同じ轍を踏んではいけないと、中鉢さんは話します。粘土の採取、精製から窯の番、そして紙やすりでの磨き作業と、手間ひまが大変かかる金山焼。作品を適正な価格で販売するために、燃料は製材所の端材を使用するという小さなことも、100年計画にはとても大切なことなのです。

産地作りへの挑戦

 中鉢さんが数ある窯元の中から金山焼を選んだ理由は「ここでしかできないことがたくさんある。世界で一番魅力があった」からです。そして、一番近い将来の目標は、自分で設計した窯を持ち、その窯で自分の陶器を焼くこと。窯の作りによって、陶器の焼きあがり方が全然違うそうです。分業化された窯元も多い中、最初から最後まで自分の手で作品を作り上げたい、という思いがあります。
 派手さはないけれど、味がある金山焼。日本のみならず、世界の金山焼ファンを惹きつけてやまない魅力、それは産地作りに関わる一人ひとりの魅力だと気づかされます。
 9月18~23日は「2010秋の陶器祭り」で、大好評の大半値市と窯出し即売会が開催されます。ぜひ行って、見て、聞いて、体験して、金山焼の良さに触れてみてください。

<金山焼に関するレポート>

金山焼レポートbyあらら:五所川原~世界一の工房、金山焼~

手作りピザ体験レポートbyいっちー:作品名は「ばんばのピザ#1」@パタータ

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