前編に引き続き、たか丸くんパパの妹尾昭吾さんとニャッパゲママのやなぎはらともみさんの対談をお送りします。キャラクターを通じて二人のデザイナーが見つめる先は、どんな未来像なのでしょうか? 最後までごゆっくりお楽しみください!
キャラクターが、日本を変える!
――:続いて、キャラクターデザインを生業とされているお二人に、「キャラクター」というものが持つ可能性や、創造したキャラクターを通じて叶えたい思い、というものがあれば、お聞きしたいのですが。
やなぎはら:そうですね……ニャッパゲというキャラクターの世界には、ニャグゴという悪者がいるんです。そのニャグゴが人間にとりつくと、みんなしょんぼりしちゃってネガティブになるんですけど、ニャッパゲはそんな人たちのしょんぼりした気分を取り払ってくれるんです。
やなぎはら:つまり、猫の可愛さで周りの人に元気を与えよう、ということなんですね。それが現実にも、ニャッパゲというキャラを通じて元気になってくれる人たちが増えてくれば、すごくうれしいです。
妹尾:僕の場合は……地域活性、ですね。たか丸くんを生みだした時はそこまで考えてなかったんですけど、自分の創造したキャラクターが、弘前城築城400年祭という弘前市の人たちにとって記念すべきイベントのマスコットに選んでもらって、それを通じて弘前市の様々な人たちと知り合うことで、キャラクターが持つ地域活性の力に気づくようになりました。
だから今後は、日本各地のキャラ同士が結びついて行くことで、地域と地域の連携、人と人の連携をつなげて、地域活性を進めたい。そういう願いが、今の自分の中にはありますね。
今回のやなぎはらさんとの対談も、ニャッパゲとたか丸くんの結びつきがあって初めて実現できたものですから。大阪と秋田の人間が、お喋りするために弘前に来てるんですよ。なかなかこんなこと、あり得ないと思います。
やなぎはら:ああ、そうですよね。もう既に、小さな一歩が実現してるんですね。
妹尾:理想的には、市民と市民が行政の垣根を越えて直接結びつけば話は早いんですが、実際はいろんな縦割りのしがらみがあって、なかなか上手くいきません。そこを、キャラクターの持つシンボル性という力を借りて突破したいんです。大きく言えば「キャラクターが日本の構造を変える」ということですね。
やなぎはら:おお! すごい、かっこいい!!
妹尾:まだ世の中には「所詮キャラクターなんて……」と軽視されている人も多いと思いますが、デザイナーとしては「キャラクターというものは大きな力を持っているんですよ」ということを訴えていきたいです。
――:妹尾さんが仰る、その「キャラクターが持つ大きな力」がもっと広く認められるためには、どんな努力が必要になってくるんでしょうか?
妹尾:そこは、行政と市民が一体化して、地域活性という目標に向かっていく、というところが一番大きいと思います。そういう意味で、たか丸くんは弘前市からも弘前市民の皆さんからも、地域活性のシンボルとして本当に、大事に大事に育ててもらっていると感じますね。
僕のことを「たか丸くんの作者、お父さん」と呼んでくれる人は多いし、それはすごくうれしいことですが、たか丸くんがここまで人気者になったのはすべて、弘前市とそこに住む人たちのおかげです。弘前市がすごいのは、築城400年祭を成功させるという目標に向かっての一体化が、上手く機能していることにあると思いますよ。
大事なのは「融通が利く」こと
やなぎはら:本当に、弘前市の人たちからのたか丸くんの愛されっぷりは、素晴らしいですよね。ニャッパゲは個人発信の民間キャラクター。趣味から始めたものということもあって、ご当地を盛り上げると言っても、資金面で限界を感じることはあります。
妹尾:いや、メディア展開という意味ではニャッパゲの方が成功してるんじゃないですか? メディアが取り上げるのも、ニャッパゲというキャラクターが持つ可能性――地域を盛り上げるポテンシャル――に気づいているからです。
それに、はっきり言うと弘前市みたいに融通の利く自治体って、日本全国見渡してもなかなか無いと思うんですよ。普通、ほかの自治体じゃ地域のマスコットキャラの作者にネットでペラペラしゃべらせる機会なんて与えてくれないですよ。弘前市は本当に、度量が大きくて寛大だと思います。
逆に言うと弘前市は、築城400年祭推進室の皆さんをはじめ大勢の方々が、400年祭の成功とたか丸くんの育成に向けて、大変な努力をされてるということでもあります。だからこそ、僕なんかの一介のデザイナーの立場の人間であっても「今度はこんなことやりませんか?」と提案させてもらえるんですね。本当に、ありがたいことだと思っています。
――:弘前市は恵まれた例外、ということになりますと、活躍する場所が多いのは基本的に、行政主導のキャラクターより民間発信のキャラクターだということでしょうか?
妹尾:そうだと思います。だから民間発信のキャラクターが活発に動いてくれれば、地域活性はもっと大きな動きになっていくでしょうね。ニャッパゲはその最たる好例ですよ。
やなぎはら:ニャッパゲの場合、版権を全部、うちの事務所が管理しているので動きやすいんです。グッズを作ってくれる人がいれば、そのライセンスを委託したり販売したり、新しい企画を立ち上げる場合は全部、自分たちでやったり。その都度その都度、選べるのが民間のキャラクターの有利なところかもしれませんね。
やなぎはら:一昨年は、ニャッパゲを配信しているソニーデジタルと大河ドラマ「天地人」のタイアップキャンペーンがあって、その時に山形県米沢市の直江兼続マスコットキャラクター「かねたん」とコラボしたんです。
ニャッパゲのお話の中に、かねたんがゲスト出演。直江兼続の時代にニャッパゲたちがタイムスリップするお話で、かねたんが助けてくれる、可愛いストーリーでした。※2
かねたんは山形県のキャラなんですけど、弘前市と同じようにものすごく融通を利かせてくれたので、いろいろと面白いことをやらせてもらえましたね。
※2 現在は欠番となっています
妹尾:融通が利くところは、やっぱりキャラクターの知名度も上がりやすいですね。弘前市も、葛西市長がたか丸くんを受け入れてもらいやすい環境を、率先して整えてくれるんです。上に立つ人の決断力、というのは本当に重要ですね。
やなぎはら:そんな弘前市の融通に甘えて、これからしばらくニャッパゲは、たか丸くんと仲良くさせてもらおうかな(笑)。
「うちのキャラ」「あそこのキャラ」という言葉が一般的になればいい
やなぎはら:最近は、ツイッター上でのキャラクター同士の結びつきはすごく進んでいて、ある地域のキャラクターが別な地域のキャラクターと仲良くツイートしているから、それぞれのフォロワーが相手のキャラをフォローしあって、さらにフォロワー同士の交流まで進んでいく、という現象が増えていますよね。
ネット以外でも、私はいろんな機会に「弘前市のたか丸くんがすごく可愛い!」と宣伝していたので(笑)、秋田市の人でたか丸くんのことを知っている人は結構いるんじゃないかと思います。
――:妹尾さんが住んでいる大阪でも、たか丸くんの知名度は徐々に広まっていると聞きましたけど……。
妹尾:そうですね。僕は名刺にたか丸くんのイラストを入れてるんですけど、配った人の中にはかなりの確率で「お、このキャラ知ってるで」とおっしゃってくれる方がいます。「弘前のキャラやろ。桜とお城で有名な……このキャラも描いてんのや~」と話が広がって、すごく僕に対する信頼度も上がるんですよね(笑)。
やなぎはら:よくできた息子さんですね(笑)。
妹尾:ちょっとだけ悲しいのは、これも結構な確率で弘前のことを「ひろまえ」と読む人がいる、ということなんですけど(笑)。
やなぎはら:(笑)。でも、そうやって、ネットであっても実際のビジネスであっても、何かの機会で知った他の地域のキャラクターをきっかけにして、今度はその地域に興味を持って、いつかは実際にそこへ行ってみる、という流れが生まれたら、ステキですよね。
妹尾:実際、僕の周りの友人の何人かは、今年の弘前の桜まつりに行ってましたね。「たか丸くんに会いに行ってくるで!」って(笑)。人も桜も、とにかく想像をはるかに超えて素晴らしかった、と言ってました。
これが一般化すると「うちのキャラはココがすごいから、みんな会いに来てよ」「あそこのキャラは何か面白そうだ。今度の休みに、会いに行こう」となるんじゃないかな、って願っています。
――:現在、当サイト「青森の魅力」でも、「青森キャラんど.com」さんとのコラボ企画「リレーでつなぐキャラんどの輪」を進行しておりまして、県内のキャラクターの交流と、それに伴う地域間の結びつきを促進したいと思っています。
妹尾:あれは面白い企画ですね。
やなぎはら:青森県だけでもこんなにキャラクターがいるんだ!って、感心しながら見ています。
そしてキャラクターは、世代を超える
妹尾:昨日も市役所関係者の方々から言われたんですけど、たか丸くんというキャラクターは何よりも、弘前市の明日を担う子供たちに浸透しているのがありがたい、ということでした。
50年後、弘前市で450年祭を開いたとして、その時イベントを主導する大人たちは自分たちが子どもだったころ、たか丸くんというキャラクターがいて(もしかしたらその時も活躍しているかもしれませんが)、大人も子供も一緒になって400年祭を盛り上げていたな、と思い出してくれるはずだと。そういう共通の思い出が、未来の弘前市の一体感をより強めてくれるだろうと。その言葉を聞いて、すごくうれしくなりました。
やなぎはら:今の地域と地域を結び付けるだけではなくて、現在と未来も結びつけてくれるんですね、たか丸くんは!
妹尾:それはたか丸くんに限ったことではなく、ニャッパゲもほかのキャラクターも、みんな同じ力を持ってるはずです。
――:実際、昨日の市民交流会の会場でも、おばあちゃんお母さんお孫さんの三代でたか丸くんファンだ、っていう方々が妹尾さんにご挨拶されていましたね。既に現時点で、世代を超えてキャラクターが受け入れられる、ということは証明できているんじゃないでしょうか。
妹尾:そういうことだと思います。大人にも子供にも、どんな世代からも愛される存在、普遍的な存在になれる可能性を秘めているのが、キャラクターの持つ最大の強みでしょうね。現実のアイドルだと、これはなかなか難しいことではないでしょうか。
やなぎはら:アイドルと言ったら忘れちゃいけないのが、りんご娘! 彼女たちは別ですよ。弘前市の全世代から愛されてるアイドルです(笑)。※3
妹尾:確かに、彼女たちは別ですね。昨日初めて、生で歌を聴いて間近でお話もしましたけど、可愛かったですね~(笑)。泊まったホテルでも深夜番組でりんご娘が出ていたけど、かじり付きで見てしまいました。
やなぎはら:ニャッパゲも、4月の黒石市のチャリティーイベントでりんご娘とご一緒させてもらったんですけど、彼女たちのひたむきさとか、本当に可愛らしい。可愛いだけじゃなく、芯の強さも感じられて、勇気や感動を与えられるアイドルですよね。ニャッパゲのニャジロウは、黒石以来、りんご娘の大ファン。プロフィールにも「りんご娘の大ファン」とか入れちゃおうかな。妹尾さんも私もりんご娘が大好きだし、いつか、りんご娘・たか丸くん・ニャッパゲで何かできないですか? ステージとかも面白そう。
※3 りんご娘については、こちらの記事をご参照ください
→りんご娘 独占インタビュー
→再び、りんご娘 独占インタビュー
キャラクターを輝かせるのは……
――:それでは、これが最後の質問です。たか丸くんとニャッパゲという人気キャラクターのファンに向けて、作者お二人から一言ずつ、お願いします。
妹尾:そうですね……冒頭でお話しした、自分の勘違いの件につながるんですが、たか丸くんというキャラクターを通して多くの感動や夢、希望をもらっていたのは、ファンの皆さんではなくて、僕の方だったんです。キャラクターの作者は、偉くもすごくもありません。すごいのは、そのキャラクターに愛情を注いでくださる皆さんです。
妹尾:たか丸くんが輝いているのは、弘前市の大勢の市民の皆さん、弘前市外のたか丸くんファンの皆さん、そういった方々からの応援が、大きなエネルギーになっているからです。たくさんの方の力がキャラクターを輝かせてくれます。たか丸くんはまさに、皆さんの力を命として生きているんです。
今は僕も、一人のファンとしてこれからもたか丸くんを応援し、少しでも彼の生きる力になれればいいな、と思っています。そしてこれからも、皆さんに愛し、応援してもらえるようなキャラクターを、世に送り出し続けて行きたいと思います。
やなぎはら:見事なまとめです。私、もう付け加えることありません(笑)。
でも、そうですね……キャラクターの作者同士がこうやってお話しする機会ってなかなか無いと思うんですが、今回のこの対談をきっかけにして、東北各地、日本各地のキャラクターやファン同士の交流が活発化する、一つのきっかけになればいいなと、願っています。
――本日は、たくさんの貴重なお話を長い間、本当にありがとうございました!
***
以上で、対談は終了です。妹尾さん・やなぎはらさんお二人の、弘前という土地への愛着や思い、そしてキャラクターの持つ地域活性に向けての可能性、上手く伝え切れることができたでしょうか? お二人の言葉から、明るい未来への希望を感じ取ってもらえたら、これに勝る喜びはありません。以上、akkyがお伝えいたしました!
【参照記事】
おしえて! たか丸くん 前編
おしえて! たか丸くん 後編
コメント一覧