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青森の魅力について語る人☓人魅力対談
対談005:
青森の魅力☓TOHOKU STANDARD PROJECT
仕事を通して提供する価値とは?~取り替えの効かない仕事と生き方~
淨法寺:今日は『仕事を通してこれからどんな価値を提供していくのか』のテーマでいきたいと思います。よろしくお願いします。
金入:よろしくお願いします!
東北に根付いた暮らし方を見つめる『東北STANDARD』
青森屋・晩香炉の向かいには、渋沢栄一が構えた本邸のうち唯一現存している渋沢邸。1991年に移築・保存。
淨法寺:まずは、『東北STANDARD』(http://tohoku-standard.jp/)いいですね~!
金入:ありがとうございます。最近はミュージアムショップの他に『東北STANDARD』も主な活動としてやっています。
淨法寺:始めたきっかけはありますか?
金入:特にショップは東北の工芸品や小物なんかを扱い始めてから「東北の魅力って何ですか?」と尋ねられることも増えてきていて…初めは、東北の魅力っていわれても、みんな人それぞれだしっていう感じに思っていて、工芸品のセレクトをしていたりしながらも、モノ目線で考えていたところがあったのです。
淨法寺:モノ目線で始めた活動から、人にスポットを当てるようになったのはなぜですか?
金入:やっぱり、東日本大震災ですね。あんなに大変な出来事があってから、今、東北で起きていること、考えていること、作られているものについて見つめ直すようになりました。それを発信することによって、十年先の将来に「東北って素晴らしいね」とか「これって青森の魅力だよね」って認知されるようになると思っていますし、それをショップとして表現していきたいと思っています。
淨法寺:震災を乗り越えた伝統技術と、厳しい環境を何百年も超えて乗り越えてきた東北のモノづくりがリンクしますね。
金入:本当そうですよね。この東日本大震災という出来事は忘れられないものだし、アーティストやデザイナーにとっての、新しいテーマとなっているものだと思います。震災がきっかけで、デザイナーやアーティストにも変化をもたらしていると感じます。だから今は、新しいものが生まれる時代なのかなと思っています。
淨法寺:新しいものが生まれる時代とは?
金入:今までは「生死」を間近に感じることってなくて、物事の本質を考える機会があまりなかったと思うのですが。それが今、東日本大震災があってひとりひとり新しいことというよりも「自分が生きることってどういうことなのだろう」「働くってどういうことなのだろう」「社会に貢献するってどういうことなのだろう」ってことを考え始めている。そういう局面だからこそ、新しいものが生まれているっていうのはありますね。
淨法寺:生きる意識、仕事に対する意識が高まっている感じですね。
金入:初めの頃は、正直、実感を掴みきれないまま言っていたのですよ。もともとは人それぞれだと思っていたので。「青森の魅力」という言葉は、一言では言いにくいものであると思っていて…
淨法寺:うんうん。確かに人それぞれだし、これっていうのは言いきれないかも。
金入:『東北STANDARD』の運営で伝統工芸の職人さんを訪ね歩いているのですが、生きるヒントみたいなものを聞いているのです。「東北の魅力とは何か」を、歴史とか文化・伝統などと向き合ってきた、かつ、新しいことを見出そうとしている職人さんから聞きたいと思って、勉強させてもらっています。
金入さんの東北STANDARDを考えるきっかけとなった2011年3月11日の東日本大震災。八戸市は津波により大きな被害に遭った。(写真:特派員たがまぁさん)
職人と伝統工芸とモノづくりの価値
淨法寺:僕は職人さんの手仕事で面白いというか不思議だなと思うことがあるのですけど…
金入:どういうことですか?
淨法寺:大量生産・大量販売って、やはり儲かるじゃないですか。逆に、『東北STANDARD』では「少ししか売れない」「たくさん売れても、生産が追いつかなくて困ってしまう」みたいなものを取り扱っているじゃないですか。そういうものを扱っているということは、たくさん儲けてやろうみたいな考えではないはずなのですよね。一体、職人さんは何を求めてもの作りをしているのでしょうか?
「捨てないものを作る」そんな経営をしたいと思っているので、すごく興味があります。
金入:そこ凄い意味があって、それが、青森の魅力に繋がっていく話だと思うのですけど、例えば青森と東京を比べてみると、スピードの違いとか…田舎って一言でいうと一見ネガティブな要素ってあるじゃないですか。何百年も前から作るのが大変なものを何百年も作り続けて売っていることだったり、新しい商業施設がなかなかできないことだったりとか。小中学校の同級生が近所に住んでいるとか…親戚が近くに住んでいるとか…。そういうこと自体がネガティブに捉えられたりするのですよね、一見。
淨法寺:青森では結構当たり前なことですよね。
金入:そう。でも、そういったことが、良いことに置き換わっていくことで魅力になっていくと思うのですよね。そもそも取り替えがきかないような文化を持っている場所っていうのが魅力だし、そういう場所だからこそ生きられる、生き様というか、生き方というか。それが、大量生産、大量販売とは馴染まないのだと思います。
淨法寺:今の『取り替えのきかない』って言葉、そのままャッチコピーに使えそうなくらい良いですね
金入:職人さんから聞いた話ですが、殿様のために何ヶ月もかけて作っていた時代と今とでは同じ製造方法で作れるわけがないのですね。だけどそこにある、例えば鉄に対する想いなんかは今も変わらずに持ち続けている。そして何百年も伝統を守りつつ、新しいものを作り続けようとしているわけで…
淨法寺:色々聞きたいことが浮かんできたのですけど、例えば伝統の鉄器をひとつ作るのに3ヶ月かかるとしたら、少なくても100万円は下らないじゃないですか?
金入:そうですね。
淨法寺:当時は殿様が買い取ってくれていましたが、現在、一般の方に買ってもらおうと思ったら、おそらく価格は10万か、20万円程度だと思うのです。お金だけの話をしたら、割に合わない。職人さんはお金以外の報酬…つまり、どんな価値を得たいと考えているのでしょうか?
金入:お金じゃない価値ですね。費やした時間や労力を考えると…
(しばらく考える金入さん)
金入:自分がそうする理由はわかるのですよ。それは裏の話っていうか、経営者としての話をするならば。差別化というか、他の土地には無いもの、例えば広い世界に打って出ようとするのであればするほど、その地域独自のものの価値が重要になってくる。文化でも伝統でも、大切にするのは必然で。ちょっと質問の答えになってないかと思うのですけど。ん〜、やはり職人さんは使命感ではないでしょうか。伝統が継がれるかどうか、自分の手にかかっているという。
淨法寺:なるほど。何かそういうものが、職人さんは持っているはずですよね。そういうことが、地域の魅力を支えているような気がします。
金入さんが手がけているTOHOKU STANDARD PROJECT。
青森県にとどまらず、東北のさまざまな伝統工芸を取材・紹介。
(写真:「東北STANDARD」http://www.tohoku-standard.jp/より)
ネガティブなことから始まる地域活性
金入:ちなみに、地域の活性化という言葉は色々なところで聞くけれど、それってネガティブなことから目をそらすのではなく、そのネガティブに思っていることから、魅力を探すってことのほうが…
淨法寺:いいですね~!
金入:その方が広く考えると刺さるっていうか、意味があるっていうか、より広い視点で見ると意味がある。僕はそっちのほうが好きです
淨法寺:まさに青森の魅力もそうなのですよ。金入さんはなにがきっかけでそう思ったのですか?
金入:僕は元々、ヒップホップとか好きで…
淨法寺:え!意外なところからきたよ(笑)
(一同、笑い)
金入:ヒップホップも自分たちにしかできないことをやって、しかもその街を誇りに思って、表現しているっていうのがかっこいいなと思って
淨法寺:うんうん。
金入:ニューヨークヤンキースのキャップ。ニューヨークではあれをよくかぶっているじゃないですか?あれってニューヨークのひとつの象徴ですし、そこまで普遍的なものになれば、それってすんごいことだなって思って、それで最初、手ぬぐい作ったのですよ。それを地元・八戸市のヒップホップやっている子とか、アウトローな感じの人とかが身につけてくれたら嬉しいなって思って
淨法寺:あー、それいいですね
金入:そしたら、偶然見かけた知り合いが、ポケットから垂らしてくれていて
淨法寺:おお!狙い通りですね
金入:やんちゃな知り合いが…(笑)嬉しかったなあ…あれ、なんの話でしたっけ?
淨法寺:普通、強みを活かすはよくあると思うのですけど、弱みを逆にプラスに持っていくことに、なぜ惹かれるのかという話ですね。
金入:僕は、以前勤めていた銀座の伊東屋さんが日本一の文房具屋だと思っているのです。そこで5年勤めたとき、「ここは日本一だから、ここを真似しても一生勝てないな」って感じました。まして田舎に戻ってきて、ここで様々なものの規模が縮小してくのに、同業者の中で同じことをやっても太刀打ちできないなって。
淨法寺:修行期間に感じたことなのですね。
金入:はい。それで、青森でも自分なりの感動っていうものを考えた時に、一見、人々にとって興味が薄いものとか、古いなって思われているものの方が、東京に対して勝負できると考えたのです。
淨法寺:なるほど
金入:差別化…ポジショニングって感じかな。それが、青森ならではのものであれば、青森に住んでいること自体をアドバンテージにしようと考えたのです。
淨法寺:それ、すごく分かります。実際にJサポートの地域活性事業や人材育成事業でも、ネガティブな部分から目を背けるのではなく、むしろ弱点を活かすというブレイクスルーを起している事例がうまくいっているのです。
金入:すごいですね。例えばどういうことです?
淨法寺:地域もそうだし、人もそうです。現在、進めていることを例にしますね。これが軌道にのれば嬉しいのだけど。ある知的障がいを抱えた子のお母さんが、「うちの子どもは同じ絵しか描けない」って話してくれたのですね。我が子のことを、笑いながら、かつ愛しながら、言うのです。毎日毎日、同じ絵を描いているって言っていたのですよ。
金入:うんうん
淨法寺:それって凄いことだと思って、それを活かして商品のパッケージを作ったらいいじゃん、て思ったのですよ
金入:うんうん
淨法寺:外出せず、ずっと絵を描いているのって、マイナスな状況だって見る人もいるかもしれない。でも、同じ絵を描き続けられるって能力でパッケージを作成できる。一枚一枚が手書きの世界に一つしかないパッケージって世の中に無いじゃないですか。だからその子が、一日中ひたすら絵を描いていて、それが世界にひとつしか無いパッケージとして、道の駅とかに並んでいて、その子も給料をもらってお母さんに給料で何かを買ってあげるみたいな。そういう感じでできたらいいなって。
金入:そういう感じ良いですね。会社経営を任されている身として、そういうニッチな部分を拡げて普遍化させていくところまで進まないとなって、よく考えています。
淨法寺:今は当たり前ではないものを、当たり前にして差別化していくみたいな感じですよね。
金入:そうそう。だから、今やっている活動でいうと、単純に青森のお国自慢だったり、東北は大変だから応援してくださいということだったりでは足りないのではと思う。確かに差別化を意識していたけど、5年後や10年後、ではそれが何に役立っていたのか、何が面白かったのかっていうことが成立しない気がしていて。しっかり、そこまで昇華させるための、計画や作業が大切なのではと考えています。
淨法寺:うんうん
金入:淨法寺社長のその例でいえば、同じ絵を描き続けることの真価を見極めて、それを地域の人だけじゃなく、もっと広くに訴求させられるものを見出して、形作っていけるようになりたいですね。
淨法寺:そうですね…うんうん。
金入:まじめすぎですかね(笑)
淨法寺:いやいや!すごくいいです。
中里:最後に、『東北STANDARD』をこれからどのように発展させていきたいですか?
金入:『東北STANDARD』は、東北らしい生き方というか、自分たちらしい生き方を見つめる視点だと定義しています。今は工芸品の紹介を中心にしているのですけれども、他にも伝統芸能や建築物だったり、東北らしいエッセンスが詰まったコンテンツだったりを紹介していきたい。とことん、東北らしさを詰め込みたい。そして今は、英語版も制作しています。例えば日本人が北欧ってかっこいいなって思ったり、ブータンって独特な生き方で素敵だなって思っていたりするように、海外の人からも東北の生き方って素敵だなって思ってもらえるくらいまで、魅力を発信していきたいと思っています。それが『東北STANDARD』の目標です。
淨法寺:いいですね、めっちゃまとまりました(笑)
金入:よかった。ほっとした(笑)
淨法寺:今日はありがとうございました。
金入:ありがとうございました!
対談終了後のひとコマ。みなさんリラックスしたいい表情でした。
対談の他にカネイリミュージアムショップについてもインタビューしています。
「弱みをプラスに変える」「弱みを活かす」。考え方や伝え方が今後の青森の地域活性につながる。ふたりの時に熱く、時にわくわくした話が続く。
淨法寺が青森の魅力を始めるにあたっての想いを綴った記事。「日常の中の魅力:サイトに込めた想い」