魅力No.575の記事でお伝えした、弘前城植物園内の一角、芝生の広がる自由広場の片隅に、大きな木の切り株があります。
これは、「太郎杉の幹」と呼ばれるものです。
太郎杉とは、かつて禅林街の最深部、長勝寺の門前の市道中央にそびえていた、樹齢八〇〇年を超える杉の木でした。
長い年月の間にやがて幹の上部は枯れてしまい、地上十七メートルのところで切り落とされましたが、その後も長く、その地にしっかりと根を下ろしてきました。
この辺りに、大きな大きな木があったのは、私もよく覚えています。しかし残念ながら平成十年(一九九八)、とうとう枯死してしまったのです。当時関東に住んでいた私は、それを知らずに翌年のお盆、お墓参りで禅林街を訪ねた時、この木が無くなったのを知って、かなりのショックを覚えたものです。
しかし、あの思い出の中にあった木の幹に、弘前城植物園内の中で再会することができました。弘前の町の歴史以上に長い時間を生き、一帯を見守ってきたこの太郎杉を愛する人たちの手で、ここに残されたのでしょうか。
太郎杉は、今は地面に横たわり、静かに眠りについています。
その、人間には想像もできないほど長い一生の間に刻まれた、自然の力の証。
そして、この幹からしっかり育まれる、新たな命。
思い出の中のあの木が、ここに来ると鮮やかに蘇ります。
失われたかもしれない太郎杉は、実は失われていなかったのでした。
自然の力って、素晴らしい。
そんなことを、思わず感じてしまった一日でした。
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