三沢市街に小さな趣ある佇まいの喫茶店があります。
その店内は能面が作り出す幽玄の世界が広がっています。
店内には常時100点以上の作品が展示されており、間近でじっくりと能面を鑑賞でき、能面作家さんとお話しをすることができます。
能面は、一見無表情に見える中間表情をしており、喜怒哀楽を表現していないように見えますが、見る角度によって表情が変化し、ほんのわずかな動きで、怒ったり、笑ったり、涙を流したりなどの感情を表現ができるように作られます。
無表情の人を能面のような表情と使われますが、実は能面はさまざまな感情を持ち、観る人さまざまに感じ方が異なるのではないかと感じます。
ギャラリー氈鹿に飾ってある能面は、ほんのりやわらかく優しさを感じるやさしい顔に見えました。何か安定した空気が漂い、落ち着く雰囲気を感じます。
表情に魅せられて
こちらが、このギャラリーを経営されている能面作家の井上京香さんです。
能面にたずさわって23年。今もなお、能面を追及するべく多方面で活躍されています。
私は、能面というと男性が彫るイメージがありましたが、女性であることに初めびっくりしました。
お話を伺うと、女性の能面作家さんも多く活躍されていて、男性は素彫りに力がありダイナミック、女性は細かいところをとても丁寧に仕上げるそうです。お化粧が上手だからでしょうか?とのことでした。
また、能や能面は、私にとっては非日常のことで、なかなか出会う機会がないのですが、井上京香さんが能面の世界に入ったきっかけを伺ってみました。
もともと、人物画が好きで、墨絵や仏様の絵を描いていたそうです。
「表情」にとても興味があり、能面もたまに目にしていらして、井上さんにとっては特に珍しい存在ではなかったそうです。
そのうち、面打ち教室へ通い、面打ちをはじめてからすぐに才能を開花され、1992年第17回手工芸美術展新人金賞を受賞。その後も数々の手工芸展に入賞し、三沢市文化奨励賞を受賞されています。
はじめるときは、難しいという気持ちを全く持たなかったという井上さん。縁あるものは不思議と自分に集まってくると感じていますが、井上さんにとっては、日常的に「表情」に触れ、この能面へとたどり着いたのでは、、、と感じました。
表情の現れる瞬間
能面を製作することを「面を打つ」といいます。ひとつの角材からのみと彫刻刀で面を打っていき、
「粗彫り」→「中彫り」→「仕上げ彫り」と工程が進みます。
井上さんは、この仕上げ彫りの工程が一番好きだそう。
工程がすすむうちに面に命が宿り、表情が出てくる瞬間が一番の魅力と語ります。
1mm違っても、全く違う表情に。作り手によっても微妙に違う表情を見せる能面。
井上さんの能面は、いつもほんわか笑っていて優しい美しさを感じます。
面を打っている時は、無心だそうです。
心身共に健康じゃないと打てません。精神工芸である日本の伝統文化を継承するのは、美しい心と強い精神で向かうのでしょうか。
郷土を愛する
井上さんの能面は、「青森ヒバ」で作られています。
通常は桧が多いそうですが、東北に住んでいる特色を出すべく、青森の誇る木材である「青森ヒバ」にこだわりを持っています。
面を打つ点でいえば、桧に比べ割れやすいそうですが、香りがとても良く、桧よりヒノキチオールを多く含み、防虫、防菌が利点があります。現在、青森ヒバは希少となっており、とても貴重な作品です。
井上さんは神奈川県鎌倉市の出身でいらっしゃり、以前、お兄様が三沢に勤務されていた時に遊びにきたのがきっかけで、三沢の地が気に入り現在三沢に住んでいらっしゃいます。
三沢には、小川原湖を代表するすばらしい自然があり、青森にはねぶたなどの祭りがあり、その他青森県にはたくさんの素晴らしいものがあるとおっしゃいます。
外からきたからこそ感じる素晴らしさを三沢市の方、青森県の方にもっと感じて欲しいとの想いをお持ちです。
こちらは、小川原湖のまりもをモチーフに作ったキーホルダー。
まりもは北海道のイメージがありますが、小川原湖にもまりもがいるのをご存じですか?
また、毎年4月の第一土曜日は、三沢基地内で、米軍の方々を対象に日本文化を紹介するために、能面展を開催。
こうした様々な創作を通して、地域の発展に貢献されています。
氈鹿
「氈鹿(あお)」はカモシカの意味で、能面と何かつながりがあるのか、井上さんの想いがあるのかとても聞きたかったので、ギャラリーの名前の由来を伺ってみました。
この喫茶店をオープンする前、山へ行ったときに、偶然2頭のつがいのカモシカに出会ったそうです。すぐ近くだったので、目と目が会いしばらく微動だにせずいましたが、そのうち山に消えていったそうです。その出会いに運命を感じ、この「氈鹿」という名前を付けたのだそう。
そのほかにも、カモシカを目にする機会は多く、カモシカも縁のあるものなのかもしれません。
珍しい出会いでは、十和田で奥入瀬川を泳ぐカモシカの姿も目撃したことがあるそう。。。スゴイ遭遇です。
店内には所狭しと多くの作品が展示されています。
能面ブローチや能画もあり、多彩な才能に驚きます。
インターネットでも井上さんの作品を購入することができます。
⇒ギャラリー氈鹿
井上さんの胸元にはかわいいキューピーちゃんがいましたよ。
井上さんは「面好会(めんこいかい)」という能面の会を主宰されており、イベントも多数開催されています。
【2011年前期日程】
・新春能面展
日程:2011年2月19日(土)~2011年3月21日(月)
場所:街の駅みさわ
(青森県三沢市中央町2丁目7 TEL:0176-50-0090)
出品者:面好会(めんこいかい)会員
・女流能面展
日程:2011年4月24日(日)~2011年5月14日(土)
場所:三沢空港ギャラリー
(青森県三沢市大字三沢字下タ沢83番地198 TEL:0176-53-7500)
出品者:井上京香(三沢)、安保たえ子(青森)、音喜多とみ子(八戸)、飛内美佐子(むつ)、三浦とし子(五戸)、吉岡倫子(三沢)
・能面二人展
日程:2011年5月1日(日)~5月15日(日)
場所:鳴海要記念陶房館
(青森県弘前市大字賀田字大浦1-2 TEL:0172-82-2902)
出品者:清野正雄(藤崎)、小笠原武志(三沢)
また、面打ち教室も開催。(三沢市、青森市(RAB学苑)、むつ市(むつ松木屋))
面打ちに興味のある方はぜひ訪ねてみてください。
コーヒーを飲みながら、素敵な井上京香さんのお話を聞いてみてくださいね。
■ギャラリー氈鹿
三沢市中央町3丁目1-17
TEL:0176-57-0275
営業時間:14:00~19:00
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