2008年、女優の宮崎あおいさんが主演を務め、大ブームとなったNHK大河ドラマ『篤姫』。
このドラマの題字を手がけたのが、弘前市出身・在住の書家、菊池錦子さんです。
さらに菊池さんは、来年2011年1月9日から放送が開始される大河ドラマ『江 ~姫たちの戦国~』(主演:上野樹里さん)の題字も手がけられることとなりました!
まさに全国的に活躍される菊池さんの姿から、同じ弘前市民として誇らしい気持ちが浮かんできます。
弘前市民の思いと言えば、来年から一年を通じて開催される、市民の思いが凝縮した一大イベント「弘前城築城400年祭」の題字を手がけられたのも、やはり菊池さん。
2011年は弘前市民にとって、必ずどこかで菊池さんの書かれた美しい字が、書が、楽しめる。そんな一年になりそうです。
そして今回、この「青森の魅力」にて、菊池さんにインタビューを行わせて頂くことができました。どうぞ皆さま、最後までお楽しみください。
書道との出会い、瞬間の記憶
菊池さんと書道との出会いは、6歳の頃だという。
「何か習い事をさせたいという母が選んだのが、縁あって書道だったのだと思います」
それは結果的に、菊池さんにとっても我々弘前市民にとっても、実に幸せな出会いとなったのだと言える。
「習字をはじめた頃の、前後の具体的な状況はあまり覚えてないんです。覚えているのは、初めて筆を持って、“一”、“二”という漢字を書いた、その瞬間だけ」と語る菊池さん。
それまでまったく触れたことのないものを通じて、自分が文字を生み出した、その瞬間の記憶が今なお鮮明に、菊池さんのこころの中に生きているのだという。
これで終わり、ということはない
それでは、筆を手にとり紙と向かい合ったとき、そして実際に文字を書くとき、どんなことを考えるのですか? と質問してみた。
「たとえば、“花”という文字を書くとしましょう。まずそれがどんな花で、どんな場所にどんなふうに咲いているのか……、そのようなことを頭の中でイメージします。
でも、筆を持って実際に”花”という文字を書いている時は、イメージを意識しながらという感じではなく、一瞬間一瞬間の直感で筆を運んでいるという感じですね……」
撮影/八木橋廣広告写真スタジオ
ディレクション/エフ.サプライ
私のような、書道の経験がほとんど無い人間にとっては想像もつかないことであると同時に、深くうなずかされる言葉であった。続けて私は、次のように質問した。
「それでは、実際に書かれた文字が、最初のイメージ通りだったら上手く書けたと満足できるのでしょうか?」
肯定をなかば確信しての質問だったが、菊池さんから返ってきた答えは、ちがった。
菊池さんははにかみながら「満足できた書、というとおこがましいですけど、自分なりに納得できた書だと思えるのは、最初のイメージ通りというよりは“これは本当に私が書いたんだろうか”と思ってしまう、そんな書を書かせて頂いたときなんです」と語ってくれた。
筆を紙に走らせ始めた時から生じる、一瞬のインスピレーションが、自然に、すなおに、あるがままに自身の気持ちを表現してくれるのだという。
「その瞬時に生み出された作品は、その時精一杯の表現ですので、その時点で納得できたとしても、時を重ねるごとにまた新しい何かが生まれるとすれば、これで終わりということはないですね……」
「書を書かせて頂く」という菊池さんの言葉からは、「字を書く」という行為がかつてと比べてどんどん少なくなっている現代の世の中において、実に美しい言葉として響く。そのように感じられた。
「ありがたい」という気持ち
初めて『篤姫』の題字をテレビで目にした時、菊池さんはどんなことを感じたのだろうか。
「ありがたい、というその一言につきます。ドラマは、企画制作、脚本、演出があって、それを演じる俳優さんたちがいらして、音楽、美術、スタッフ……たくさんの方々が、それぞれの役割をもって、その想いが結集して、ひとつの作品になると思うのですが、その一端に関わらせていただいたというありがたさと、書を始めてからそれまでの間、励まして下さった方々への感謝の気持ちでいっぱいでした。
それと同時に、ドラマの中で、題字がきちんと役割りを果たせているかどうか……という思いでオープニングを見ていました」
そして、一人の視聴者として『篤姫』の世界に魅せられたという。こんな菊池さんのすなおな気持ちは、きっと来年から放送が始まる『江 ~姫たちの戦国~』を見ても、やはり同様なのだろう。
弘前400年の伝統と、豊かな未来に向けて
2011年という1年間を通じて弘前全市内で開催される「弘前城築城400年祭」の題字を依頼されたとき、最初に頭にうかんだのは、弘前城本丸からながめた岩木山の姿だったという。
「この本丸から、代々の藩主がお岩木山を眺めてきたという400年の歴史の重み。そして、築城のために流された人々の汗と熱い想い。ロゴの全体像を天守とお岩木山にみたて、そこに、未来に向かって永久に発展してゆく弘前の姿を重ね合わせて、書かせて頂きました」
菊池さんの荘厳かつ雄大な筆致は、弘前の歴史と伝統、その中で育まれた市民の思いを来年1年間、全国に発信するための、何よりのシンボルとなってくれるだろう。
あこがれの文字
菊池さんの好きな文字、好きなことばは、何なのだろうか。
「これ、というのはなかなか絞れないですね。たとえば、好きというか、自分がよく書く文字、というのはあります。それは“舞”という文字です」
菊池さん自身は、幼いころから書道に親しみ、筆を通して自己を表現することに慣れてきた。それだけに、何の道具も使わずに、ただひたすら全身を使って自分自身を表現する、舞いをされる方に、ずっとあこがれを感じているのだという。そのあこがれが、“舞”という文字を書くときに、自然と現れるのだろうか。
「先生のファンで、“舞”という字がつく方がいたら、きっとものすごく喜ぶんじゃないでしょうか」
そう質問してみると、菊池さんはそうであってくれたらうれしいですね、と答えてくれた。
紙の中に込められる思い
筆で文字を書く魅力とは、いったい何なのだろう。失礼かもしれないと思いつつ、その点を質問してみた。
「文房四宝(ぶんぼうしほう)といって、筆/墨/硯/紙という四つの道具を指す言葉があります。例えば一口に“墨”といっても、濃い墨もあれば薄い墨もあります。色も微妙に異なります。“筆”にも、太いものもあれば細いものもあり、毛質の種類もさまざまです。無数と言ってもいい組み合わせ、選択肢の中で、自分が表現したいものに少しでも近づけるように、工夫を凝らすことができます。
そして、そういった工夫の先に、自分が相手に伝えたいことを、紙の中に込められる。感情を、文字の中に直に形にして相手に伝えることができる。そのようなことが書の魅力のひとつだと思っています」
撮影/八木橋廣広告写真スタジオ
ディレクション/エフ.サプライ
鉛筆やシャープペンシル、ボールペン。文字を書くとき、せいぜいそれくらいしか選択肢がない、今の世の中。いや、もはやキーボードで入力を済ませることで、文字を書く、という機会そのものが急速に失われつつある日本の中で、これだけ真剣に“文字を書く”ことを愛せる人がいる、ということに、強く感動を覚えた。
青森の魅力
今や全国的に活躍される菊池さんから見て、「青森の魅力」とは何だろうか。最後にこの点を質問した。
「青森は、三方向を海に囲まれて、岩木山、白神山地、八甲田連峰がそびえ、同じ県内でもそれぞれ場所によって風土が異なっていると思うのです」
魅力No.379「ジューシーなホタテを召し上がれ」より
魅力No.205「おいでよ、行合崎へ:後編」より
魅力No.412「海の向こうに」より
魅力No.75「グリーンのトンネルに癒しを求めて」より
魅力No.776「10月29日、国道394号線にて」より
その素晴らしい風土の中で生かされてきたことを誇りに思い、よりよく、青森を成長させようと努力されている方が、たくさんいらっしゃいます。そういう方たちの存在が、青森をさらに新しく形づくってくれているのだと思います。
魅力No.407「私はこの町から見上げる空が好きです」より
魅力No.377「じゃわめく三味線の音色 仁太坊祭 ~五所川原市金木町~」より
魅力No.956「再び、りんご娘独占インタビュー」より
青森の魅力は、この地に住んでいる“人”です。この地に育まれ、育み、活かされ、活かし、生活している県民の皆さまお一人お一人に魅力があると感じながら、私は青森で暮らしています」
それまでの、控えめで遠慮がちな言葉と打って変わって、「青森の魅力」を力強く語ってくれた、菊池さん。菊池さんご自身が、県民にとっての誇りであり、青森の魅力なのだと、この言葉を伺って確信した。
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以上でインタビューは終了です。お楽しみいただけたでしょうか。
本当に、控えめで遠慮がちで、そこがとってもチャーミングな素敵な方でした。
繰り返しになりますが、私は書の道にまったく詳しくありません。それでも、一流の方のお話を伺うと、それが自分の生き方に役立てることができるのだと、菊池さんのお話を伺っている間、ずっと感じていました。
そして読者の皆さまにも、菊池さんの言葉から何かを感じとってもらえていたら、編者としてこれに勝る冥利はありません。
菊池さんの公式HPはこちらです。
最後に、感謝の言葉を。
貴重な写真を提供して頂いた「TEKUTEKU」編集部の宮川さんはじめ、スタッフの皆さん、カメラマンの八木橋さん、本当にありがとうございます。
こだわりを見つける弘前ウォーキングガイド「TEKUTEKU」vol.7は、現在弘前市内各書店やコンビニにて絶賛発売中です。菊池さんへのインタビューは、現在発売中の「TEKUTEKU」vol.7にも掲載されております。このインタビューには載っていない情報も満載ですので、皆さま「TEKUTEKU」をお見かけの際は、ぜひご一読を!
同じく、写真の提供のお願いに快く応じてくれた、魅力特派員のBANBAさん、yukorin、のんべえ、ゆ~みん、そしてsduにも感謝を。
私の拙い文才を補って「青森の魅力」を伝えるのに、あなたたちの力が必要でした。
菊池さんとの連絡の仲介を取って頂いたNさんにも感謝の言葉を。
あなたのおかげで、すばらしい方のすばらしいお話を伺うことができました。
そして、魅力特派員のマメタロウさんに、最大の感謝をお送りいたします。
あなたがいなければ、この企画は生まれませんでした。
この記事を読んであなたに喜んでもらえれば、それだけでも幸いです。
その他、たくさんの方に感謝の気持ちをこめつつ……。
長い文章にお付き合い頂き、ありがとうございました。akkyがお送りしました!
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